千年前のヒット曲
いや、昔は歌ってたんですよ。
「でも、五七五七七の歌詞だけで、曲は書いてないよ?」
だって、曲は全部アドリブだもん。だからメロディーは残んないの。
ただし、現代の音楽に比べればずっとゆっくりだったでしょうけどね。現代のテンポで五七五七七を普通に歌ったら、あっという間に歌が終わってしまいます。なので、一音一音じ~っくり時間をかけて、歌っていたのでしょう。
「ああいうのって、だいたい即興だったりするんでしょ?」
即興っていうと、二、三秒で思いついたのかな~って感じですが、まあ、中にはそういうのもあるのでしょうけど、きっと「歌いながら考えた」んじゃないかと思います。
一音一音じ~っくり時間をかけながら、「さて、この後どう展開しよう…」と思い巡らせていたのでしょう。
枕詞ってのがありますけど、あれはきっと、後の展開を考えるための時間稼ぎだったんですよ。でなきゃ、決まりきった言い回しなんて退屈なだけです。
例えば、「光」には「ひさかたの」がつくわけで、これだけで八文字、時間にして…まあ、少なくとも分単位は稼げたでしょう。その間にあれこれ考えることができます。そういう時間稼ぎです。
「ところで、一つの歌がいくつかの歌集に載ってたりするのはなんでだろ?」
「歌集」ってのはつまり、今で言う「アルバム」、それも「コンピレーションアルバム」(既存の曲をいろいろ集めたアルバム)のようなものです。
「メガヒット曲集」みたいな感じね。
例えば、「1980年代のラブソング集」と「1980年代のドラマ主題歌集」みたいなコンピレーションアルバムがあれば、当然、収録されている曲も重なるところが多かったりなんかするわけで、ま、そういうことです。
つまり、現代まで残っているような和歌は、「遥か千年前、巷で大ヒットした流行歌」だったりなんかするわけなのです。
Oh!X 1990年9月号 特集「日本語を処理するための序章」
ソフトバンク